先日元経産省技術院長の運転する自動車(トヨタ プリウス)が暴走し死傷者を出した東池袋暴走事故の初公判が話題になっています。
被告はクルマの不具合を理由に過失無しの無罪を主張しているとのこと。
上級国民なんていわれていますが、マスコミも図に乗りすぎです。あの老人にそんな政治力があるものですか。
他の犯罪者と同じく法で許された言い訳はなんでもつかっているだけです。
池袋暴走事故の公判にみえる自動運転時代の裁判
裁判は法の範囲内でどんな申し立てもできます、司法が高度に発達していればこその「弊害」です。
そしてこれから電動化の進んだクルマの事故が起きるたび自動車の欠陥のせいにする事例が増えるでしょう。
製造業の知人の中には国情ゆえに諸外国に比べ日本の自動運転は普及が遅れるのではないかと話す人がいて、私もどうもそんな気がしております。
電動化に伴い車載技術は年々複雑になり立証も難しい。これで自動運転ともなればどうなるのでしょうか。
自動運転の死亡事故はメーカーの責任は何処まで追求されるか、考えただけで恐ろしい。
車載部品のお仕事は今最も重要ですが、そのうち中小企業にとっては疫病神になるのではとさえ思っております。
自動運転は技術よりも法的責任が最大の問題
今自動運転に厳密な規格らしいものはありません、自動化の程度を表す呼び名(レベル1-5)があるだけで各社研究中。
膨大な資金がつぎ込まれていますから大変性能がいいものができるでしょう。
一方で法制度は整備されていません、技術内容が定まっていないからです。
つまり技術の優劣とは別に自動運転の事故はどんな内容となり責任が誰にあるのか、誰にもわからない。
日本はこういう技術変化についていきづらい社会であります。国やメーカーではなく社会そのものがです。
責任が問われるのは運行者かもしれないし(運転者という概念は無くなる)、今回被告が主張するように自動車メーカーかもしれないし、自動運転のネットワークを提供する通信会社かもしれない。
5G規格で実用に足るかどうかさすら実はまだわからないのです。
最終的には運用ルールを作った国の責任になるでしょう。しかし交通事故は年間30万件を超えます、責任を負いきれません。
法整備の議論は難しいものとなるはずです。容易に結論が出ないのではないでしょうか。
一方で投資金額が大きい分、ルールの決定が長引けば日本は商売にならない市場と認識されると思います。
ESGどころではない・海外は人命より技術開発と投資を優先
海外はどうしているのか、一言で申さば「多少の犠牲があっても自動運転の実現を優先する」というものです。
ESG投資なんてものをいかがわしいとおもわずにいられない理由であります。
死亡事故でもテスラはESG株・自動運転は中国発となる理由
怪しいとの見方もありますが、テスラは2020年中に完全な自動運転(レベル5)を実現すると公言しています。
同社の自動車による自動運転では米国内で既に何件か死亡事故も起こっておりますが、勢いが止まる気配はありません。
使用者の過失との判断ですが市場実験の雰囲気が強い。
テスラ株はESG銘柄としてメジャーですが、何か悪い冗談のようです。
日本ならば自動運転(オートパイロット)前提の販売継続はありえないでしょう。
加えていうならテスラは中国市場で急速に販売を伸ばしていますが、これは自動運転で最も大事なデータ収集という点で大変な強みです。
中国では自動車による死亡事故は問題視されないからです。さぞ生々しいデータが大量に手に入ることと思います。
トヨタには到底出来ないことです。しかしどちらがまともか、いうまでもありません。
中国も心得ていて積極的に進める様子です、自国の自動車産業に落とし込むつもりでしょう。
そのような目的ならばお国柄からして多少の事故で規制はしません。
自動運転技術は中国発となるという予測は実現すると思います。
日本では自動運転車の死亡事故は許されない
一方日本はといえば、自動運転車で一件でも人身事故が起きたならそこで一度終わりです。
メディアは大騒ぎ、国もメーカーも長期にわたる検証と莫大な対応費用そして法整備の議論が必要となり、しばらく何も出来なくなります。
人命尊重ゆえの遅れをメディアはどういうのか
これは人道面では至極は良いことなのですが、世界的には非効率であり遅れているとされるでしょう。
そのとき日本のメディアはどう反応するのでしょう、経営にスピード感がないとでもいうのでしょうか。
人を轢き殺す勢いでスピードを上げよと言わんばかりになるだろうと思います。なにせいまだに「バスに乗り遅れるな」が合言葉です、舶来にもっとも弱い業界でもある。
念のため申し上げますと私は日本の考え方のほうがはるかにまともだと思っています。
現時点では海外の動向は明らかに拙速であり経済的な利益、つまりはかねを優先した対応です。
海外にはいざソロバンとなると生き死には関係ないというところがある、激しい社会であります。
ただ例外が起こる可能性はあります、あんまり人のよくない予測ですが。
最初に日本国内で人身事故を起こすのが海外メーカーだった場合、もっと言えば欧米系のメーカーであった時はメディアも世論も勢いが鈍るでありましょう。
少なくともトヨタが最初に事故を起こす時と比べれば反応は確実に違うはずです。
成長産業への巨額な投資は人の感覚を麻痺させる
人の悪い予測はさておき、今海外で見切り発車的に自動運転が行われる理由は理解できます、この分野への投資金額は天文学的とも言えるほど莫大。
年間30万台程度しか売っていないテスラの時価総額がトヨタを超えている、とてつもない期待値です。
現在はもう人の感覚では捉えきれないほどの膨大なお金が投資と称して瞬時に集まり、また瞬時に雲散霧消する時代です。
そして自動運転関連に投じられている金額は、自分とその家族の生命でない限り人命と比較することもいとわないのでは思わせるほどの金額。
しかも今海外で自動運転に取り組んでいるメーカーは、5年もしないうちに無くなっているか、名前は同じでも全く違う事業をしているかもしれない。
成長性と利益を求めてどんどん変化します。
つまりこちらが責任を追求する時、肝心の相手がいない可能性すらある。
テスラが5年後に出前サービスか売電専門の会社になっていても驚きません。実は遠からずイーロンマスクは自動車から手を引くのではないかとすら思います。
巨大な資本が物凄いスピードで動くとはそんなことです。
半導体の設備投資が数千億円規模になった頃からついて行けない気がしておりましたが、ある時期から仕事とはいえ少々馬鹿馬鹿しくなりました。
「上級国民」非難は嫉妬をあおる商売
なお今回言われる上級国民という言葉に私は興味がありません。嫉妬をあおる卑しい手口と思っております。
確かに家族を亡くされた遺族には同情しか感じません。同じことが起きたら自分も気が狂わんばかりになるし運転者を憎むでしょう。
しかしメディアの書き方はそれとは関係ありません、あれは被告の肩書きや経歴への嫉妬をあおって話題を作ろうという卑しい発想です。
なおもしかするとかつては被告も多少のコネぐらいはあったかもしれませんが、とっくにもう無いでしょう。
時に人脈が大きく影響する営業から言わせて頂ければ、本当に強力なコネを持っている人ほど目立つことを嫌う。
こういうセンセーショナルな話題や人物からは距離を置く。
誰がわざわざ世情に逆らってまで悲惨な人身事故を起こした『元』経産省官僚を庇うでしょうか。
上級国民に反応する人々は人脈のなんたるかを知らないか、知らないふりをしている人です。
裁判は法が許す限りどんな言い分も許される
被告は事故を起こして以来、法制度で許されるぎりぎりの範囲で自己の便宜を図っているだけだと思います。
裁判を経験すると目の当たりにしますが、そこは信じられないような言い分も主張することが許される場です。
私たちは殺人やひどい障害事件を起こした刑事事件で、被告が無罪主張をすることはもう見慣れています。
いまさら被害者を痛ましがりかつ被告を責めるのは偽善です。
キャリアを極めた老人に対するおおぜいの嫉妬心に迎合したメディアや芸人の仕業です。
もし非難されるべきことがあるならそれは弁護士であり、またどんな罪人でも無罪を言い立てることができる背景を作り上げてきたこれまでのメディアの論調でしょう。
殺人犯・粗暴犯・婦女暴行犯の裁判に対し、長年「社会の責任」「罪を憎んで人を憎まず」と実に無責任なごたくを並べたのはマスコミと自称知識人・タレントであります。
私はあの言葉を使いたいとは思いません、あんなわかりやすい世論誘導にひっかかるのは嫌です。
あえて言えば「上級国民」という言葉を盛んに煽って事件の悲惨さを報道するメディア人士こそ、常日頃から自分は一般とは格が違うと自認している人が多い、という事実をお考えになるべきかと。
クルマの電動化は交通裁判の大きな争点となる
自分の仕事でいえば、これほどの知見があってもいざ被告となればクルマの欠陥を主張することのほうが興味深い。
長年科学技術行政の中心にあり、技術者としても評価を得ていた。本人が現役のころ同じ話を聞けば「クルマの不具合はありえない」と一笑に付したでしょう。
繰り返しますが「過失無しであり無罪」としています、減刑ではありません。
もう自動ブレーキ技術はかなり普及してきています。いい放題です。
冒頭に述べたとおり自動運転ともなれば交通事故の裁判では刑事・民事によらず自動車メーカーをはじめ思いつく限りの関連企業を挙げて責任を問おうとする例が増えるのではないかと思います。
運用基準を定めた国の責任とするものが出てくるのもさほど先の話ではないでしょう。
車載関連は法人営業にとって魅力的でありますが、なにしろ40年以上前の扇風機の火事で非難される時代です。
こんな危険を冒してまで車載関連の仕事をとりにいく意味があるのかなあ、とニュースを見ながらぼんやり考える次第です。